倒れていくファーガスの後ろからゆっくりとその男も姿を見せる。
その男を睨みつけミアは感情を露わにする。
「何者ですか!」
ミアの感情とは反対に冷静な男。
「俺か?俺の名はギール。」
聞いたこともない名前だった。
「ギール…」
神妙な面持ちのミアと動揺するアサヒを見ながらギールは笑った。
「それにしてもこの国の連中は弱いやつばかりだな」
笑いなが言い放った言葉と共にミアに襲いかかる。
ギールの剣を水の刃で受け止める。
「彼らは弱くなんてありません!」
ギールの剣を振り払い水の魔法で応戦する。
ミアの魔法を容易く避けるギール。
ギールの強さを感じ取ったミア。
このままだとやられる。アサヒだけでも逃げてもらわないと…
「逃げてアサヒ!」
ファーガスがやられ、ミアの攻撃も通用しない状況をただ見ていることしか出来なかったアサヒの足は震えていた。
「でもミアが…」
動くことができないながらも自分だけが逃げることは選べなかった。
ギールに攻撃を放ちながらアサヒが逃げる時間を稼ぐミア。
「今のうちに早く逃げて!あなたを巻き込むわけにはいかない!このままじゃ2人とも…」
ミアの必死の攻撃を簡単にかわしながら攻め込んでくるギール。
「よそ見していいのかよ」
余裕の表情から放たれる斬撃を魔法でガードするも吹き飛ばされるミア。
ギールの強さとボロボロのミアを見てアサヒは完全に気圧されてしまった。
「早く逃げて…アサヒ」
これが正解ではないことはわかっている。傷つく女の子を置いて自分だけ逃げるのは間違っている。それでも自分を必死に逃がそうとするミアを見てこの場から逃げることしかできなかった。
「ミア…」
下を向いたまま震える足を叩き走り出した。
逃げるアサヒをギールは見逃さない。
「逃がすわけねーだろ!」
斬撃を放つギール。
アサヒに向かって飛んでくる斬撃に魔法をぶつけるミア。
「アサヒはやらせない!」
ボロボロになりながらもアサヒを逃がそうとなんとか斬撃を防いだ。
「な!!このガキが~」
遊んでいるかのような表情はアサヒに逃げられたことで怒りに満ちた表情に変わった。
息が切れながらもただ必死に走る。
「ハッハッハッ…」
無心で走りながら頭に浮かぶのはミアに出会ってからこれまでのことだった。
ミアの乗る馬に跳ねられたことから始まったこの世界。
いきなり知らない場所で、明らかに自分がいた場所ではないこの場所で見ず知らずの自分に優しく接してくれたミア。
自分は何で傷つくミアを置いてきたんだ…
必死に走り続けた足が止まる。
「なんなんだよこれ…夢じゃないのかよ」
ギールの斬撃を防ぎ逃してくれたミアを思い出す。
「俺は何もできないのかよ…何も」
ボロボロになりながらも何とかアサヒを逃がそうと必死に戦うミアの姿がアサヒの心を締め付ける。
「俺は…」
空を見上げると昨日と同じ星があった。昨日のミアの笑顔をもう一度見たい。
気づいた時には振り返り走り出していた。
何とか急所は避けながらもギールの攻撃に喰らいつくミア。
明らかに疲労困憊のミアと余裕の表情で痛ぶるギール。
「お嬢ちゃん一人でよくやったよ。あのガキも逃げられたしな」
笑顔のギールとは裏腹に息を切らすミア。
一歩ずつ近づいてくるギールにもう動くこともままならない。
「さて、終わりにしようか」
ギールは剣を振りかざす。
ミアは目をつむり死を覚悟した。