窓から差し込む光で目が覚めた。
開いた眼に見えるのは見慣れた天井ではなかった。
「戻って…ないか」
この夢はまだ終わらないのか。
それとももう戻れないのか。
そんなことを考えていると、見えていた天井が見えなくなった。
「おはよう」
覗き込むミアの顔を認識するまでに一瞬間が空いた。
いきなり現れたミアに驚き慌てふためいた。
「お、おはよう」
ミアの挨拶は寝起きのアサヒを起こすには十分だった。
「朝食ができたみたいよ」
「そ、そっか。ありがとう」
準備を始めるアサヒを見ながら部屋を出ていくミア。
ミアが部屋を出たのを確認したアサヒは深呼吸して落ち着いた。
びっくりしたしたけど、あんなに可愛い子が起こしに来てくれる朝も悪くないな…
食堂で朝食を食べる2人
朝から沢山の料理が並んでいる。
周りからは朝食を楽しむ声が聞こえるが、2人のテーブルは静かに食事をしている。
2人とも何か話をしたいが話かけられない。
お互いに気を遣っているのか、食事の進む音だけが聞こえる。
沈黙を破りアサヒは食べる手を止めミアを見た。
堰を切ったようにアサヒは勢いよく話始めた。
「あのさ!ここは水の国で、馬に乗って移動して、魔物みたいなのがいきなり現れて、魔法を使って倒したり、いったいなにが起きているんだよ!」
興奮した表情のアサヒに困惑しながらもミアは冷静に答えた。
「あなたはこの国のこと、この世界のこと何も知らないの?」
ミアの問いに真剣な眼差しで頷いた。
その眼差しを見て何かを感じたミア。
「あなたは一体何者なの?」
改めて目の前にいる男の子がどんな人なのか気になった。
立ち上がりミアの顔をしっかり見つめた。
「俺はアサヒ 17才!日本で生まれ神社で育った、剣道2段の高校生!」
食堂にいる人全てに伝わるほどの声で答えた。
周りにいる人も話を止め、アサヒを見ていた。
困惑しながらも聞きいったミア。
「日本がどこかはわからないけど、あなたは別の世界に来てしまったのね」
別の世界という言葉に驚くも、どこか納得してしまった。
昨日からの出来事がその言葉一つで繋がる感じがした。
「別世界…」
自分の言葉で表情が変わるアサヒを見て、いてもたってもいられなくなった。
「どうやって戻れるのかはわからないけど、私で力になれることがあれば手伝うわ」
その言葉に勇気をもらった。
ミアの言葉には勇気付ける何かがある。
理由はわからないが、ここに来てからミアの存在は時を追うごとに大きくなる。
「ありがとう。えっと…」
名前を呼ぶべきか迷った。
恥ずかしさとまだお互いをよく知らない関係に何て呼べばいいかわからなかった。
「ミアでいいわ。アサヒ」
戸惑うアサヒの表情に笑顔のミア。
突然の名前呼びに驚きと照れが入り混じったが自然と笑顔になれた。
静かだったテーブルはいつの間にか2人の笑顔があるテーブルに変わっていた。
しかし平穏はいつも簡単に壊される。
楽しい朝食の場に変わったのも束の間それは突然やってきた。
食堂の扉がすごい勢いで開いた。
「2人ともすぐ玄関に来てくれ!」
急いできたのだろう。
少し汗が見えるファーガスがそこにはいた。
普段とは明らかに違うファーガスを見て驚く2人。
食事を止め急いでファーガスを追う。
宿舎の玄関には傷だらけの兵士がいた。
「副隊長!!いったい何が」
ミアも動揺が隠せない。
目の前の光景に理解が追いつかない。
なんなんだこれ…初めて見る光景にアサヒもわけがわからないでいた。
傷ついた兵士は苦しみながらも状況を説明した。
「急に辺りが暗闇に包まれて、みんなが見えなくなったんだ。闇が晴れたときにはもう…」
兵士の言葉に驚くアサヒとミア。
兵士は最後の一言を振り絞るようにファーガスを呼んだ。
「副隊長…」
ファーガスの耳元で何かを伝えた。
その言葉はファーガスの表情を驚きに変えた。
最後に何かを伝えた兵士は息を引き取った。
初めて人が死んだところを見た。
「これは夢だよな…現実じゃないよな」
兵士を見ながらアサヒの身体は恐怖から震えていた。
「今すぐここを出るよ!」
それはいつも明るい笑顔のファーガスの声ではなかった。
早くここから出なければ、急いでこの事態を隊長に伝えなければ。
宿舎から出ようとした次の瞬間辺りが薄暗くなった。
突然の事に驚く3人。
どこからともなく声が聞こえてきた。
「この国の連中はこんなもんか。」
声の先とは違う方からの気配に気づくファーガス。
腰に携えた剣を、気配が感じる方に振り向き様に抜く。
剣と剣が交わった。
「おっ、ちょっとはやれるやつか」
声の主は自分の剣を受け止められたことに少し驚いた。
まずいあの2人だけでも逃さないと。
最悪の状況だけは回避しなければ…
「2人とも逃げ…」
ファーガスの声を遮るかのごとく刃が振りかざされた。
「よそ見はいけねーなー」
凶刃によりファーガスはゆっくりと倒れていった。
アサヒとミアはその状況をただただ見ていることしか出来なかった。
