歩き始めて程なくして先頭を歩くファーガスの足が止まった。
「さあ着いたよ!」
その言葉に俯いていたアサヒも顔を上げた。
目の前にあるのはコテージのような建物だった。
なかなか大きい建物だ。この2人の家なのか。それとも違う人の家なのか。
お店のようには見えないが、看板のようなものはついていた。
「ここは??」
アサヒの問いにファーガスは笑顔で答えた。
「私達の宿舎だよ。今日は一緒に泊まっていけばいい」
答えと一緒に思ってもみない言葉が返ってきた。
思わずミアの顔を見てしまった。
アサヒと目が合ったミアは顔を下げた。
アサヒからは少し赤くなったミアの顔が見えた。
ミアがどういう感情かはわからないが、ミアの初めてみる顔に心を打たれた。
「可愛い…」
口から溢れでた声は誰にも聞かれることはなかった…
「さあ、中に入ろうか」
2人の空気を悟ったかのようなに笑顔のファーガスが誘導した。
ミア、アサヒと宿舎に入りファーガスも足を踏み出したところに鳥が飛んできた。
何かを咥えたその鳥はファーガスの肩に止まった。
「ありがとう」
そう言って鳥から何かを受け取った。
空高く飛んでいく鳥を見送るファーガスの顔にいつもの笑顔はなかった…
「ここがアサヒの部屋だよ」
案内された部屋はベッドと机があるだけでテレビなんてない。
いつもの自分の部屋とは全く違う。
ファーガスが何かを説明しているが、頭に何も入ってこない。
ここに来るまでの出来事が一つも理解できない状況を改めて痛感した。
「食事にしませんか」
ミアの言葉が急に入ってきた。
「食事をしてゆっくり休めば何かを思い出すかもしれないわ」
アサヒの不安を察したミアの言葉は自然と聞こえた。
「じゃあまずは食事にしようか!」
笑顔のファーガスを先頭に食堂へ向かった。
テーブルには見たこともない食事が並んでいた。
「漫画みたいな飯だな…」
見たこともない食事ではあるが、アサヒの目には漫画に出てくるような食事に見えた。
「さあどんどん食べて」
ファーガスがアサヒに食事を勧める。
恐る恐る一口食べてみると想像していたものとは違い美味しかった。
「うまい…」
アサヒの言葉を聞きファーガスも頷く。
「そうだろそうだろ。ここの料理はうまいんだよ!どんどん食べてくれ」
そう言ってファーガスはアサヒに食事を取り分けた。
どんどん勧めるアサヒの顔は苦笑いだったが、そんなファーガスをまたいつもの感じかと呆れながらも微笑むミア。
三人での食事は少なからずアサヒの心を救う時間となった。
「今日は疲れただろう。ゆっくり休めば何かを思い出すかもしれないよ」
食事を終え、部屋に戻るアサヒに笑顔でファーガスは告げた。
「ありがとうございます」
部屋に入りベッドへ倒れ込んだ。
天井には少し揺れた電球が1つ付いていた。
静かな空間はアサヒの感情を抑えられなかった。
「何が一体どうなってるんだよ。ここは日本じゃなくて水の国?わけわかんねーよ。夢なのか?寝たら覚めるのか?ダメだ寝れね!」
感情の整理が付かないまま部屋を飛び出した。
屋上へ上がり、誰もいない静かな夜空を1人眺めていた。
「どうしたらいいんだろうな…」
自分がいた場所とは違い、お店の明かりも街灯もない。
光る星だけが唯一の明かりだった。
静かな場所で誰かが近づく音がした。
音に驚き振り向くと目の前にはミアがいた。
「何してるの?」
心配そうな顔をして問いかけるミアにアサヒも素直に答えた。
「なんだか寝れなくてね…」
少し俯くアサヒに歩み寄るミア
「大丈夫?今日はごめんなさい」
ぶつかってしまったことをまだ申し訳ないと思っているミアを見て、アサヒは少し笑ってしまった。
そういえばそこから今日は始まったんだよな。
色々あったけど明日になればまた何かが始まるかもしれないな。
そう思ったらなんだか気が楽になった。
謝ったのに笑っているアサヒを見て少し戸惑うミア。
「大丈夫だよ。もうどこも痛くないよ」
その言葉に安心した。
「そう…よかった。」
初めて見るミアの笑顔にアサヒは心を奪われていた。
少し2人の距離が縮まった。
そんな事をお互いに思いながら夜空に浮かぶ星を眺めた。
