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2話 邂逅

ここは天国か、はたまた地獄か。


視界が少し晴れていく。

「ん?ここは…」

さっきまで居た場所ではないことだけはわかった。

でも意識はまだはっきりしていない。


前方から声が聞こえた。

「気づいた?」

女の声だ。

どこかで聞いた声だ。


女の声で自分の現状に気づいた。

颯爽と駆ける馬の荷物の上に俺はいた。

「馬!?」


なんで馬の上に。なんで。いつから。

頭を抱える。

自分がいつからここにいるのかわからない。

アサヒの動揺が馬に伝わる。


颯爽と駆けていた馬はアサヒを振り落とした。

「わっ!」

受け身も取れずに転げ落ちる。

痛みと動揺が交錯する。

これは夢か現実か、それともやっぱり死んでるのか…


転げ落ちた地面の砂に手をついた。

誰かの足音が聞こえた。

馬を降りアサヒの元に駆け寄った。


「大丈夫?」


さっきの声だ。

声と一緒に差し出された手を握った。

「ん…」

逆光で顔がはっきりと見えない。

身体中が痛い。

やっぱり現実なのか…


差し出された手を借りてなんとか立ち上がれた。

目の前に居た女の顔がやっと見れた。

自分と同じ歳ほどの女の子だった。

もちろん知らない女の子だ。

だが何かを感じる。

こんなわけもわからない状況なのに、その女の子から何か発せられているかのように…


この感じに近い感覚をアサヒは知っている。

あの夢と同じ感じだ…

この感じに少し笑みが出た

「ありがとう」

アサヒは女の子にお礼を伝えた。


出会いとは偶然なのか、運命なのか。

手を握り向かい合う女の子との時間はとてつもなく長く感じた…


「いつもで握ってるの?」

何かを感じていたアサヒはしばらく女の子の手を握っていた。

女の子の言葉に気づき、慌てて手を離した。

「ご、ごめん!」

見知らぬ女の子の手をずっと握っていたことに気づき、アサヒの顔は真っ赤になっていた。

恥ずかしいと思いながらも、ようやく辺りを見まわした。


何かがおかしい。ここは俺が知っている場所とは何かが違う。

「ここはどこ?」

素直に目の前にいる女の子に聞いてみた。


「水の国だよ」


聞き覚えのない答えが返ってきた。

「え!?」

思わず口にしてしまった。

この女の子は何を言っているんだろうか。

俺のことを馬鹿にしているのか…

それともやっぱり夢なのか…


考えても仕方がないもう一度聞いてみよう。

「日本だよね…?」

当たり前のことを聞いてみたつもりだった。

「何を言っているの?」

不思議そうな顔をしながら言う女の子に俺の思考は止まった…


「彼は頭を強く打って記憶が混濁しているのだよ」


どこからか声が聞こえた。

今度は男の声だ。

声がする方に目を向けると、馬に水を飲ませている男がいた。

体格のしっかりした自分より年上であろう男だ。

見知らぬ男と女の子の服装が自分の知っているものではなかった。


「あんたらいったい…」


恐る恐る尋ねと、男はアサヒの問いにすぐに答えた。

「私はファーガス。彼女は部下の…」

男の言葉を遮るかのように視線をアサヒに向けながら答えた。


「ミアです。あなたは?」


アサヒもミアの顔を見ながらしっかり答えた。


「俺はアサヒ」


アサヒとミアはお互いに目を逸らすことはなかった。

もちろん名前に聞き覚えはない。

でも視線はお互いにそらせなかった…


そんな2人を見ながら笑顔でファーガスが声をかけた。

「よろしくなアサヒ」

見るからにいい人そうなファーガスの笑顔を見ても、やっぱり状況は理解できない。

「は、はい…」


戸惑うアサヒをよそに何かを感じたファーガスとミア。

「わかってるねミア」

「近づいてきています」

2人の顔つきが変わった。


この2人の顔つきは剣道の試合で見る相手と同じ顔だ。

「あんたら何を…」

異様な空気を感じ取り動くことができなかった…





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