遠い日の記憶。今でも夢に見る光景。
ここはどこだろう。鳥の声も風の音も聞こえない森の中、目の前にいる人が言った。
「アサヒ、守りたい気持ちが人を強くするんだよ。」
顔は覚えてない。でもそこにいるのは父だ。
まだ小さかった自分にはとても大きくて、優しく微笑んでいる父の記憶しかない。
「本当に守りたいと思った時にこれがアサヒの力になるよ。」
そう言って、父がくれたアクセサリー。
父からもらった最後のプレゼント。
何故父がこれをくれたのか、これがどんなものかもわからないけど、特別なものだと小さい俺でもわかった。
アクセサリーを握り絞めながら俺はしっかりと「うん!」と言った。
それを聞いた父が微笑みながら俺を抱きしめた。
今日もここで夢が終わる...
鳥のさえずりと風の音、眠い目をこすりながら神社で落ち葉を掃除する1人の少年。
アサヒ 17才 神社の息子 剣道2段
雲一つない空を見上げて呟く。
「今日も平和だな」
胸には太陽の光を浴びてアクセサリーが光っている。
そのままふらふらと歩を進めてしまい石畳につまずいて転びそうになる。
「わっ!?」
転げ落ちそうになりながらもバランスは保った。
「ふう~」
深い溜息とともに袴から一枚の写真が落ちていく。
落ちた写真を拾い、じっと見つめる。
写真にはアサヒ、母、顔だけ切り抜かれた父の3人が写っていた。
感傷的になるのを堪え、そっと胸に写真をしまった。
掃除を続けようと歩を進めると、誰かの声が聞こえた気がした。
振返っても誰もいない。
「気のせいか...」
そう言って歩を進めると、今度ははっきりと聞こえた。
「助けて!」
その声に驚き、振り返る。
「え!?」
声の主は森の方から聞こえてきた。
空耳だろ。なんて思えない何かに引かれるかのように森へと歩みを進めていた。
「誰かいますか?大丈夫ですか?」
返事はない。聞こえているのは鳥の声と風の音。それでも引き返そうとは思わない。
さらに奥へと進む。いつの間にかあたりは薄暗くなっていた。
さっきまで聞こえていたはずの鳥の声も、風の音も聞こえない。
ただ、そのことにも気づかないほど、何かに引かれていた。
急に意識が戻ったかのように立ち止まり何かに気づく。
「ここは...あの時の...」
そう言いながら、アクセサリーを握りしめていた。
また何かが聞こえてきた。
「危ない!!」
振り向くと馬がすごい勢いで迫ってくる。
「!?!?」
気づいた時には、馬はもう目の前だった。
何とか飛んで避けたものの、受け身を取れず地面に頭を打ちつけた。意識が遠のく。
「うう...」
言葉にならない声だけがでてくる。
薄れゆく意識の中で誰かが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
少しだけ見えたその人は、女だった。
何かを言っているが聞こえない。
もうだめかもしれない。
そう思い薄れていく意識の中で思い出すのは、やはりあの夢だ。
「父さん...」
父が最後にくれたアクセサリーを握り絞めながら目を閉じた...